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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)9018号 判決

原告

片居木伸一

ほか一名

被告

近江屋興業株式会社

ほか三名

主文

1  被告近江屋興業株式会社、被告高橋昭は各自原告片居木伸一、原告剛に対しそれぞれ金二六九万九〇八七円宛及びこれに対する昭和四七年一一月五日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告近江屋興業株式会社、被告高橋昭は各自、原告片居木節子に対し金二六九万九〇八六円及びこれに対する昭和四七年一一月五日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告らの被告近江屋興業株式会社、被告高橋昭に対するその余の請求及び被告崎島正男、被告百合野重毅に対する請求を棄却する。

4  訴訟費用は原告らと被告近江屋興業株式会社、被告高橋昭との間においては、原告らに生じた費用の二分の一を被告近江屋興業株式会社、被告高橋昭の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告崎島正男、被告百合野重毅との間においては全部原告らの負担とする。

5  この判決は主文1・2項に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告ら)

一  被告らは各自原告伸一、同剛に対しそれぞれ金八四八万四、二〇九円宛及び内金七八一万七、五四二円に対する訴状送達の日の翌日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自原告節子に対し金八四八万四、二〇八円及び内金七八一万七、五四二円に対する訴状送達の日の翌日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

四  仮執行の宣言。

(被告ら)

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

(請求の原因)

一  事故の発生

訴外片居木安雄はつぎの交通事故によつて頭骨々折、脳挫滅の傷害を負い、昭和四七年四月二一日午後六時五分死亡した。

(一) 発生時 同日午前七時四〇分項

(二) 発生地 東京都品川区大崎町一丁目一九番一四号先道路上、国電大崎駅東方約四〇〇メートルの東から西へ走る環状六号線(通称山手通り)上。

(三) 道路状況 歩車道の区別があり、車道幅員一四・六〇メートル、片側二車線でセンターラインがひかれ、車道両側には幅員三・五〇メートルの歩道があり、ガードレールの設置がある。制限速度は時速四〇キロメートルで当時小雨が降つていた。

(四) 加害車 普通貨物自動車(品川四は九九五八)

運転者 被告 高橋昭

(五) 態様 横断歩行者の片居木安雄に加害車が直進してきてはねとばした。

二  身分関係

原告節子は片居木安雄の妻であつた者、原告伸一、原告剛は片居木安雄の子であり、法定相続分により権利を承継したものである。

三  責任原因

(一) 被告会社は加害車を所有して自己のため運行の用に供じているものであるから自賠法三条による責任を負うものである。

(二) 被告高橋は前方不注視、制限速度違反、ハンドル・ブレーキ操作不適当の過失により右事故を惹起したものであるから、民法七〇九条による責任を負うものである。即ち、被告高橋は加害車を運転し前記山手通りを居木橋方向から大崎駅方向へ向け第二通行帯を時速五〇キロメートル以上の速度で進行中、前方左右を注視し進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、左側第一通行帯を並進する車両との接触を避けることのみに注意を奪われ、前方不注意視のまま進行した過失により、折から国電大崎駅で下車し、株式会社菅沼製作所に出勤の途上、道路を横断しようとして傘をさして左方から右方へ、道路の中央部まで横断し、残りの半分を横断するために左方大崎駅方向からの車の動向に注意して佇立していた被害者片居木安雄の身体の右側後部に加害車の右前部を衝突させ、はねとばしたものである。

被害者片居木安雄は、横断開始後、既に道路中央までは横断を完了していたものであるから、あと被害者が道路横断に当つて注意すべきは左方から進行してくる車両の動静のみであつて右方から進行してくる車両については当該車両の運転者が前方を十分注意するであろうことを信頼すれば足りるものである。また事故発生時頃はさほど交通量も多くなく、通常他の者も横断している場所である。

以上の次第で本件事故は被告高橋の過失により発生したものであり、被害者には何らの過失もない。

(三) 被告崎島、同百合野は被告会社の代表取締役であり、使用者に代わつて被告会社の被用者たる被告高橋の事業の執行を監督する者であるが、本件事故は、被告高橋が被告会社の業務の執行中に発生したものであるから、右被告両名は民法七一五条二項により代理監督者責任を負うものである。

四  損害

(一) 入院関係費残 四万三、四六九円

寝台車代三万三〇〇〇円、剃毛手術代三、五〇〇円、診断書代一〇〇〇円、雑費五九六九円の合計四万三、四六九円。

尚死亡に至るまでの入院治療費は被告会社が直接病院に支払つた。

(二) 葬儀関係費 五三万二、九二七円

原告らは葬儀社への支払等の葬儀費として三六万〇七〇〇円、葬式当日の食事費等として九万四、三九七円、仏壇戒名料として七万七八三〇円、合計五三万二九二七円を支払つた。

(三) 墓所建設費 六五万円

被告会社は原告らに対し、通常の損害とは別に墓所建設費を支払うとの約定もしていた。

(四) 逸失利益の相続 二二八九万三、二三〇円

被害者片居木安雄は事故当時株式会社菅沼製作所に勤務するかたわら、弱電関係の技術を生かして自らも事業をし、アパートの管理人として管理料収入を得、又、将来の収入を図るため別のアパートの管理人も引受けることとしていたものである。そして事故前三ケ月の平均月収は菅沼製作所八万八、九九〇円、事業収入二万九、九〇八円、アパート管理料収入八〇〇〇円であり、さらに別のアパートの管理人として毎月七万円の収入を得る予定であつたから、結局合計月収一九万六八九八円を得ていたものである。

被害者片居木安雄は大正一〇年六月二日生れで事故当時五〇才であつたが、肉体的にも精神的にも極めて健康であつた。勤務先の菅沼製作所には定年制もないし、被害者は晩婚で子供も若年のため生活の安定に腐心してきたものであり、老令に達しても就労するつもりであつたものであり、またそれが可能であつたのである。

以上の次第であるから逸失利益としては月収一九万六八九八円、生活費控除三〇パーセント、就労可能年数二〇年(二四〇月)とし、月別法定利率による単利年金現価係数一六六・一〇五五を乗じて得られる二二八九万三二三〇円とするのが相当である。

(五) 固有の慰藉料(原告三名分) 四〇〇万円

(六) 弁護士費用(原告三名分) 二三〇万円

原告らは手数料として三〇万円を既に原告訴訟代理人らに支払い、謝金として二〇〇万を支払う約定をした。

(七) 損害の填補 原告らは自賠責保険から四九六万七〇〇〇円を受領した。

五  結び

以上の次第で原告らの損害の総額は前項(一)ないし(六)の合計三〇四一万九、六二六円から(七)の四九六万七〇〇〇円を控除した二、五四五万二、六二六円となる。そして原告三名は右のうち逸失利益相当分については各三分の一宛相続したものであり、他の費目についても各三分の一宛の実害を受けたとするのが相当であるから、結局原告伸一、同剛は各八四八万四、二〇九円宛、同節子は八四八万四二〇八円となり、内各弁護士費用として今後支払う二〇〇万円の各三分の一宛を控除した七八一万七五四二円に対する訴状送達の日の翌日以降各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を付加して支払うことを求めるものである。

(答弁)

一  請求の原因一の事実は認める。

二  請求の原因二の事実は認める。

三  請求の原因三の(一)の事実は認める。

同三の(二)(三)の各事実中、加害車の速度が五〇キロメートル以上であつたこと、並進車との接触を避けることのみに注意を奪われていたこと、被害者片居木安雄が既に道路中央部までは横断を完了していたこと、被害者には何らの過失もなかつたことの各事実は否認する。

同三の(二)のその余の事実は認める。被告高橋に前方不注視のあつたことは争わないが、過失の程度は大きくない。

同三の(三)の被告崎島及び同百合野が代理監督者の責任を負うとの主張は争う。

四  請求の原因四の(一)中被告会社が死亡に至るまでの入院治療費を支払つたことは認め、その余は不知。

同四の(二)、(三)の各損害の点は不知、約定の点は否認。墓所建設費は事故と相当因果関係を欠き、また額も高きに過ぎる。

同四の(四)の事実は不知。事業収入としているのは、亡片居木安雄の労働の対価ではなく、製作機械の使用料ないし利益配分の性質を持つもので当然に遺族の原告らに承継されるものである。既存アパートの管理料は敷地が原告節子の母の所有地であることからしても原告節子への配分金の趣旨とも思われ、将来とも収入を絶たれる性質のものではない。また将来のアパート管理料の点についても、未だ具体化していない不確定不確実な見込みや希望に過ぎないし仮に、何らかの損害と認めうるとしても、通常の予見可能の範囲を超える特別損害というべきで賠償の限りでない。以上の次第でいずれも逸失利益算定の基礎とし得ないし、原告ら主張の就労可能年数は長きに過ぎ六〇才までとするのが相当である。

同四の(五)、(六)の各事実は不知。

(抗弁)

一  過失相殺

被害者片居木安雄には横断歩道外の横断という重大な過失がある。被害者は国電大崎駅で下車して出勤途上であつたが、事故現場より西方約九〇・四〇メートルの大崎駅方向には、横断歩道が設置されており、同所を通過して事故現場地点に達するのであるから、右横断歩道を利用することが山手通を横断するには最も安全であつたのであつて、わざわざ横断歩道を通り過ぎ、交通頻繁な事故地点を横断しようとしていたものである。また交通頻繁な道路を横断歩道外で横断するのであれば、右方車両のみならず左方車両にも注意し、通行車両の途切れたときに余裕をもつて横断するようにし、横断途中で佇立することのないような横断方法をとるべきであるのに、被害者はセンターライン前七〇センチメートルの加害車の進路上に佇位していたものである。一方被告高橋は、加害車を時速四〇キロメートルの速度で運転して居木橋方向から大崎駅方向へ第二通行帯を進行してきて約二〇メートル前方に被害者を発見し急制動の措置をとつたが及ばず衝突するに至つたものであるが、事故現場手前約六〇メートル付近はゆるやかな右曲りカーブで、被告高橋が被害者を発見し得るのは右カーブを曲り終つた事故地点の約五〇メートル手前の地点であり、事故を回避するには約三〇メートル手前で発見する必要があつたのである。従つて被告高橋の過失は否定し得ないが、事故地点の五〇メートル手前の地点から三〇メートル手前の地点に至るまでの、二秒足らずの時間の不注意に過ぎず、第一車線の並進車の接触を気づかうあまりの一瞬のことである。

以上の次第であるから被害者の過失は重大であるのに反し、被告高橋の過失は小さいので少くとも六割は過失相殺されるべきである。

二  損害の填補

被告会社は原告らに対し、合計七八万三二〇〇円を支払つた。

(一) 入院費・治療費 二五万〇、二〇〇円

(二) 遺体運搬費 三万三〇〇〇円

(三) 示談金内金 五〇万円

(抗弁に対する答弁)

一  抗弁一の事実中、事故現場より西方大崎駅寄り約九〇・四〇メートルの位置に横断歩道が設置されていることは認める、被害者片居木安雄に過失があつたことは否認し、過失相殺を争う。

二  抗弁二の(一)中被告会社が入院費治療費を支払つたことは認めるが、金額は不知、右は本訴請求外である。

抗弁二の(二)は不知。但し自賠責保険金から控除されたかもしれない。

抗弁二の(三)は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生と責任の有無

請求の原因一(事故の発生)、二(身分関係)、三(一)(運行供用者)及び三(二)中被告高橋に前方不注視の過失のあつたことの各事実は当事者間に争いがない。

してみると、被告会社は自賠法三条により、被告高橋は民法七〇九条により原告らに生じた損害を賠償する責任を負うものである。

ところで原告らは被告崎島、同百合野に対し民法七一五条二項による代理監督者責任を問うものである。そして被告らは右両被告が被告会社の代表取締役の地位にあり、被告会社の被用者たる被告高橋が業務の執行中、右事故を惹起した事実を明らかに争わないので自白したものと看做す。しかしながら法人の代表者たる右被告両名が、被告高橋の使用者たる被告会社に代わつて責任を問われるには、被告崎島、同百合野が単に被告会社の代表取締役であるだけでは足りず、右被告両名が現実に被用者たる被告高橋の選任監督を担当する等、具体的・実質的な指揮監督関係にあることを要するものと解すべきであるが、本件全訴訟資料によるも、かかる具体的実質的指揮監督関係についての主張立証もないので、原告らの被告崎島、同百合野に対する本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないので棄却する。

そこで以下、被告会社及び被告高橋に関する請求につき判断を進めることとする。

二  事故の状況

(一)  右事故現場は国電大崎駅東方約四〇〇メートルの還状六号線(通称山手通)上で歩車道の区別があり、車道幅員一四・六〇メートル、片側二車線でセンターラインがひかれ、車道両側には幅員三・五〇メートルの歩道があり、ガードレールが設置されていること、制限速度は時速四〇キロメートルであること、また事故現場から西方大崎駅寄り約九〇・四〇メートルの位置に横断歩道が設置されていることは当事者間に争いがない。原本の存在並びに〔証拠略〕によると事故現場は横断禁止の場所ではないと認められる。

(二)  被害者片居木安雄は国電大崎駅で下車し株式会社菅沼製作所に出勤の途上、右横断歩道を横断せずに通過して、右事故現場の道路を横断しようとして横断を開始し道路の中央部近くまで横断し、左方大崎駅方向から来る車の動向に注意して佇立していたところ、折りから被告高橋は、居木橋方向から大崎駅方向へ向け、第二通行帯を加害車を運転して進行してき、第一通行帯を並進中の車両と接触しないように注意している間に、前方に対する注意を欠き、被害者片居木安雄を発見するのが遅れ、加害車の右前部を同人の右側後部に衝突させたものであることは当時者間に争いがない。そして原本の存在並びに〔証拠略〕によると被害者片居木安雄は加害車の進路前方の左側から右側へ横断しようとし、センターラインから約七〇センチメートルの加害車進路の第二通行帯上に佇立していたこと、被告高橋は捜査の過程において加害車の速度について時速四五キロメートルであつた旨供述してきたが公判でこれを争い刑事第一審判決では時速約四〇キロメートルと認定されていること、尚同判決は右事故現場手前約六〇メートル付近はゆるやかな右曲りカーブをなしており、被告高橋が被害者を発見し得るのはカーブを曲り終つた事故地点の約五〇メートル手前の地点で、事故を回避するには約三〇メートル手前で被害者を発見する必要があつたところ、約二〇メートル手前で発見したと認定していること、被告高橋は被害者を発見した時第一通行帯には並進車がありまた右側車線には対向車がなかつたので急制動の措置をとつたが及ばず衝突するに至つたこと、捜査の過程において被告高橋は事故の原因につき並進車と多少競争をする心理もあつたと推測される供述をしていることの事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  右事実によると被告高橋は運転者としての基本的注意義務である前方不注視義務を欠いたものであるが、被害者片居木安雄としても横断歩道をわざわざ通過し、早朝とはいえ幹線道路の事故現場を横断しようとしたものであり、事故現場から約六〇メートル居木橋寄りの道路はカーブしており同方向からの車両の動静には充分な注意が要求されるのに、加害車進路上の第二通行帯上に佇立していたものであり、その行動の不適切さは否定しようもない。したがつて賠償額の算定に当つては被害者の右過失を考慮し、被告会社及び被告高橋は、事故により原告らの蒙つた損害中、その八割を賠償すべきものと認める。

尚原告らは被告高橋の過失の内容として、制限速度違反、ハンドル・ブレーキ操作の不適切を主張するのであるが、制限速度違反の点については前判示のとおり刑事第一審判決において加害者の速度は時速四〇キロメートルであつた旨認定されていることを勘案すると被告らの自白に係る時速四〇キロメートル以上の速度を認定するに足る証拠はないし、ハンドル・ブレーキ操作の不適切の点についても前判示並進車並びに対向車の存在を勘案すると右主張を採用するに足る証拠はない。

三  損害

(一)  入院治療関係、雑費を含む

被告会社が被害者の死亡に至るまでの入院治療費を支払つたことは当事者間に争いのないところであり、文書の趣旨・形式により〔証拠略〕によるとその額は二五万〇、二〇〇円であると認められる。

〔証拠略〕によると原告らは遺体運送の寝台車代として三万三、〇〇〇円(被告会社支出分)、付添婦食事代等の雑費として五、九六九円、合計三万八、九六九円を支出したことが認められ、これらは被害の程度に照すと事故と相当因果関係のあるものと認める。

尚原告らは剃毛手術代三、五〇〇円、診断書一、〇〇〇円を損害として主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

してみると原告らに発生した入院治療関係の損害は二八万九、一六九円となる。

(二)  葬儀関係費 五〇万円

〔証拠略〕によると原告らは被害者の葬儀・法要を営み葬儀社への支払その他の諸費用として四五万五、〇九七円を、また墓碑建立のための境代使用料、墓石費並びに工事費、仏壇購入費、戒名承認料として九〇万円位を支払い、結局これら葬儀関係費として一三五万五、〇九七円位を支出していることが認められる。

ところで墓碑建設・仏壇購入・戒名承認料として遺族がその費用の支出を余儀なくされることはひとえに右交通事故によつて生じた事態であつてこれとその他の葬儀費用とを区別するのは相当でないので、その支出が社会通念上相当と認められる限度において右交通事故により通常生ずべき損害として加害者に請求できるものと解すべきである。また葬儀関係費については賠償額の定額化を図ることが訴訟の促進に資するものである。以上の次第であるから後に認定する被害者の年令・社会的地位にも照すと、原告らが請求し得る葬儀関係費は右のうち五〇万円とするのが相当である。

(三)  逸失利益 九九五万七、六五七円

〔証拠略〕によると、被害者片居木安雄は大正一〇年六月二日生の健康な男子であり、晩婚のため子供達も若年であることから生活の安定に腐心し、勤労意欲は旺盛であつたこと、事故当時株式会社菅沼製作所に勤務し平均月収八万八、九九〇円を得ていたこと、同社にはいわゆる停年制もないこと、かたわら弱電関係の技術を生かしてアルバイトに従事し、平均月収二万九、九〇八円を得ていたものであるが被害者の右の家庭事情に照すと右の程度のアルバイト収入は生涯とも取得できると推認されること、またアパートの管理料として月収八、〇〇〇円の収入を得ていたことの事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

原告らはさらに将来のアパート建築後の管理料として更に月収七万円程を取得できた旨主張するが、アパート建築、管理収入の獲得についての蓋然性について、未だ本件全証拠によるもこれを認めることができない。この点については被害者の旺盛な労働意欲と生活安定への努力と評価し、これを失つた原告らの精神的損害とし、慰藉料の事情として斟酌するのが相当である。

右事業によると被害者片居木安雄の死亡による逸失利益は右平均月収合計一二万六、八九八円を基礎とし、経費控除一〇パーセント、生活費控除三〇パーセントとし、稼働期間一五年としてライプニツツ方式により中間利息を控除した九九五万七、六五七円とするのが相当である。

(四)  そうすると(一)ないし(四)の財産的損害の総額は一〇七四万六八二六円となるが、被害者の前記過失を相殺すると原告らの請求し得る損害額はこの内八割に相当する八五九万七、四六〇円となる。

(五)  慰藉料 四五〇万円

前判示被害の程度、事故の態様、過失割合、原告らの家庭事情等本件口頭弁論に顕われた一切の事情を斟酌すると原告らの慰藉料は四五〇万円をもつて相当する。

四  損害の填補

前判示事実によると被告会社は二八万三、二〇〇円(入院治療費名目で二五万〇、二〇〇円、遺体運搬費名目で三万三、〇〇〇円)を支払つており、また〔証拠略〕によると被告会社は原告らの代理人武川文一に対し五〇万円を支払つている事実が認められ、これに反する同証人の証言の一部は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そして原告らが自賠責保険から四九六万七、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争いがある。してみると損害填補額の総額は五七五万〇、二〇〇円となる。

五  弁護士費用

〔証拠略〕によると原告らが本件原告訴訟代理人らに取立を委任したことが明らかであり、本件事案の難易度、認容度、訴訟進行の経緯を総合すると、三の(四)(五)の合計額一、三〇九万七、四六〇円から前項の填補額五七五万〇、二〇〇円を控除した認容額元本七三四万七、二六〇円の一割強に相当する七五万円をもつて原告らの請求し得る弁護士費用とするのが相当である。

六  結論

以上の次第で原告らの損害の総額は八〇九万七、二六〇円となり原告はこの内逸失利益相当分を法定相続分に従い相続したものであり、他の費目についても原告らは平等の損害として主張しているので原告らの各自の損害は右金額のほぼ三分の一宛の原告伸一、同剛二六九円九、〇八七円宛、同節子二六九万九、〇八六円(右配分方法は便宜原告ら主張による。)となる。

してみると原告らの本訴請求は被告会社及び被告高橋に対し右各金員及びこれに対し事故の後であり、訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四七年一一月五日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容することとし、右両名に対するその余の請求及び被告崎島、同百合野に対する請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮良允通)

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